2020年1月                           

 

       課題本『月の満ち欠け』 

 

                           佐藤正午/著 岩波書店

 

                          

 

ご講師吉川五百枝先生が加療中のため、会員だけでの3回目の読書会でした。

 

 

 課題本『 月の満ち欠け 』 三行感想 

 

【TK】 

  今までにない発想の小説でした。輪廻と前世の人生を描いています。本人の記憶で人格で受け継いでい

   ます。しかし残念なことに感情の深読みができなかった。時系列も分かりにくく、男性目線の描き方でした。

 

 

 

◆【KT】

 

  瑠璃という女性の生まれ変りの話。物語としてはおもしろいが、月の満ち欠けのように、死んで何回も生ま

  れ変りたいとは思わなかった。物語の中に入って行けなかった。

 

 

 

◆【 T 】

 

  生まれかわってでも会いたい思いとは、どんなものなのだろう?

 

  激しい思い、強い思い、深い愛情あるいは後悔……。

 

  しかし残された者は亡くなったという現実を受け入れ、それを乗り越えて、初めて新た

 

  な一歩をふみ出せるのではないだろうか?

 

  正木瑠璃の想い、生まれかわりは独りよがりだと思う。

 

 

 

◆【N2】

 

  今日はとても楽しい読書会でした。さらっと読んだ人、深く読んだ人、どなたも佐藤正午の構成力に感心。

  さらに他の作品も読んでみたいとつくづく思いました。

 

 

 

◆【K子】

 

  面白い!でも構成が複雑なかなか理解出来ませんでした。時系列で整理していくのがいいかもしれませ 

    んネ。輪廻転生がテーマかも?読書会でも盛り上がりました。是非是非オススメ!

 

  正午のペンネームは正午から仕事をするからとのこと…。

 

 

◆【MM】

 

  想う人に会いたい一心で、何回も生まれ変わる瑠璃。久しぶりに面白い作家にめぐりあった。「永遠の中 

  二病」と言ってしまいましたが、彼の他の作品を読んでみようと思います!

 

 

 

 

 課題本『 月の満ち欠け 』 感想 

 

 

◆◆◆【N2】

 

 

 

四十代五十代の頃の知識と経験を身につけたまま青春時代に戻れたらと考えたことのある人は少なからず

 

いるだろう。

 

 

 

『月の満ち欠け』は、恋愛小説?輪廻転生?ミステリー?どれともいえる小説で淡々とした筆致で書かれて

 

いる。一度目はサラッと読んでああそうなのと思っただけなのだが、再度深く読むといろいろと考えてしまっ

 

た。三人の男と一人の女(少女)との人生が交錯してしまうのだが、こんなことあり得ないと思いつつもひょっ

 

として有るかもと思わされてしまう不思議な感覚。小山内梢が自分の娘の眼差しに大人の表情を見た恐

 

怖。三角哲彦との愛を成就させるために何度も生き返る奈良岡瑠璃。

 

 

愛の深さを書いたものなのか、執念の恐ろしさを書いたものなのか。

 

 

読み進めると瑠璃は三角に再会する為と言いつつも死ぬこと、月が欠けることを楽しんでいるのでは無いか

 

とさえ思われる。

 

 

三人の男のうち愛された三角はまだ良いのだが、小山内は妻と娘を亡くし、希美の両親は娘を亡くし、(最

 

も娘達は二人とも初めから実娘では無く瑠璃だともいえるのだが育てている親たちは気の毒である。)正木

 

竜之介にいたっては順調な生活でたまたま出会った娘に一目ぼれし結婚したがために人生を台無しにさ

 

れ、立ち直って平穏な暮らしを見つけてもなおつきまとわれ、利用され、挙げ句の果てには留置場で自死

 

るという気の毒な結末になってしまう。瑠璃は周りのものを誰も幸せにはしない。三角も実際幸せなの

 

か?

 

 

希美が三角との接触を依頼するため正木竜之介を訪問した時に見せるやり取りでは子供の顔をしながらず

 

るい女の顔を惜しげも無くさらけ出し、読んでいて気持ちの良いものでは無いがこの書き方がうまい。自分

 

の愛を成就させるためには他者の不幸は何とも思わないという感覚。「愛は盲目である。残酷である」の言

 

葉通りに。

 

 

時間を行ったり来たり、経た年数を数えながら読むという楽しみも有ったのだが、最後に小学生の顔立ちで

 

五十過ぎのおじさんに恋愛感情を抱いているという不思議さ、そしてそれを受け入れる三角にも不思議なも

 

のを感じるが、戸惑いは無いのだろうか。果してこのとき小学生の顔をした緑坂るりの内部年齢は何歳なの

 

だろうか?二十代のまま?五十代になっている?

 

 

留めは小山内が親しくしている荒谷清美の娘みずきが亡くなった妻梢の生まれ変わりということ。これは小

 

説だが自身の周りにも瑠璃がいるかもしれない。

 

 

愛の深さ?執念?が恐ろしいが、取り上げた題材は面白かった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆【MM】

 

 

直木賞をとった作品が今月の課題本だ。一人の女性が生まれ変わっていくストーリー。

 

 

今月は集中してグッと本に入り込むことができた。

 

 

時系列が行ったり来たりするので時々立ち止まって確認しながらだったが、話に引き込まれむさぼり読ん

 

だ。こんなに夢中になったのは久しぶりだ。

 

 

読んでいて感じたのはこの人は女性の心を書くのがうまいな、ということ。特に最初の瑠璃(出てくるのは2

 

番目、一番年上の瑠璃)の夫との夜のことについての描写のところだ。ああいうことに虚無感を覚える人は

 

いると思う。うまく書く人がいるのだな、と感じた。最後のところもとても好きだった。感動すらした。ずっと信じ

 

ていてくれたこと、それを言わなくても「わかってる、待ってた」と言ってくれたこと。そういう人が誰にでも、私

 

にもいるのかもしれないと思わせてくれる作品だった。

 

 

会では物語に入り込めた派とそうでなかった派に分かれた。私は自分と考えが違う意見をここで聞くのがと

 

ても好きなので、今回も身を乗り出すようにして聞いた。3人の瑠璃が出てきたけれど瑠璃は自分勝手、周

 

りが振り回されている。救いは梢や終わりあたりに出てきた今の交際相手の連れ子(みずき)の存在、という

 

もの。愛というものについてもいろいろな意見が出て、本当に楽しかった。

 

 

私の意見は瑠璃の想いは自分発信であること、梢やみずき(みずきはきっと梢の生まれ変わりではないかと

 

思う)は相手が基準になっていること。「私が愛している」というのと「彼が幸せであればいい」の違いがある。

 

梢たちのほうが愛が深い感じがする。しかし瑠璃のように強い情熱が持てるのもうらやましいと思った。

 

 

生まれ変わりを私は信じている。信じたいと思っている。アニメ映画「君の名は。」も時代を超えて想う人に

 

会う話だった。吉本ばななの世界観もそういうものが含まれていて好きなのだと思う。また新たな作家に出

 

会えて今回も得るものがたくさんあった。

 

 

前回今回と「吉川先生はなんとおっしゃるかなあ」ととても気になったのでいらっしゃらないのが残念です。

 

毎回盛り上がりはしますがやはり穴は大きいなあと感じるのも事実。先生だけではなく参加者が欠けるという

 

のは寂しい。私も頑張って読んで参加しなくては、と強く思った回でした。

 

 

ありがとうございました。

 

 

 

 

 

◆◆◆【SM】

 

 

  始まりは大学生「三角哲彦」と人妻「正木瑠璃」との恋だった。

 

 

不慮の事故で亡くなってしまった瑠璃が、三角との最後の逢瀬で交わした言葉が物語を形づくる。瑠璃は

 

「あたしね、いまアキヒコくんだけに言っておくけど、いつでも、試しに死ぬ覚悟はあるんだ」「月が満ちて欠け

 

るように、生と死を繰り返す。そして未練のあるアキヒコくんの前に現れる」と言う。哲彦は「瑠璃も玻璃も照

 

らせば光る、から。どこにまぎれていても僕にはその人が瑠璃さんだとわかる」と返す。

 

 

奈良岡瑠璃は正木竜之介という男性に乞われて結婚し正木瑠璃となる。結婚後瑠璃は、竜之介の態度に

 

真心ではなく自己満足のため、自分の人生設計の手段として結婚したのだと見抜いてしまう。浮気もしてい

 

る。そんな結婚生活の中で、瑠璃は言い知れぬ哀しさや虚しさ、不満を抱いて生きていたに違いない。そ

 

んなとき瑠璃は哲彦に出会い、自分の想いを聴き分かってくれる哲彦と恋に落ちる。だからこそ彼女は「哲

 

彦があたしのことを負担に感じ冷淡になったら、試しに死ぬ」と言葉にする。

 

 

瑠璃は三角との逢瀬の中で葛藤もしたが、生きる喜びをも感じたのではないだろうか。

 

 

 「今夜は帰りません」というメッセージを残し、地下鉄のホームで騒動のとばっちりを受けて亡くなってしまう。

 

この世に残った哲彦への未練をたっぷり残して。著者は瑠璃の心情をあまり表現することなくさらりと著わす

 

が、瑠璃にとっては哲彦と生まれ変わる程の一世一代の恋心だったのではないかと想う。

 

 こういう想いから出た行為をいま日本のでは「不倫」と言う言葉でバッシングするが、人と人の関係を道徳や倫理だけで決めつけることの恐さを感じているのは私だけだろうか。

 著者佐藤正午は瑠璃の想いを筆致するのが上手いなあとつくづく想った。だからこそ、生まれ変わりが必然性を増して読者を作品世界に引きずり込む。瑠璃の哲彦への恋心は、小山内瑠璃・小沼希美・緑坂るりへと受け継がれる。最後、三角哲彦の会社で彼は笑顔でうなずいてみせた。その笑顔は、いいんだ、何も喋らなくても、もうわかっているから、と励ますように少女は受け止められた。「ずっと待ってたんだよ」と彼は言った。

 瑠璃の哲彦への恋心は見事成就する。

 最後に、月の満ち欠けのように生まれ変わっても、哲彦に会いたいと思い続けた瑠璃の想いを何と呼べばいいのだろうと考え続けている。「純愛か」「情熱か」「情念か」「執念か」。読んだ時の私の心の状況によって受け止め方は違うからこれまた面白い。